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『セーラームーン世代の社会論』 彼女たちの仕事観、恋愛観とは?

「月に代わっておしおきよ!」、セーラームーンに明るくなくとも、このセリフは聞いたことがあるはず。2012年に20周年を迎え、作品が連載されていた『なかよし』は2014年12月で60周年。ここしばらく、記念プロジェクトで何かとセーラームーン周りが騒がしい。


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 そんな中、昔セーラームーンを観ていた世代を分析した『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎)が登場した。書いているのはなんと、40歳の男性。「17歳の男子高校生のときにセーラームーンに熱中していたけど、当時まだ“オタク=変態”という考え方があって、誰にも言えなかったですね。ここ数年、アニメ史のうちの一つに数えられて、セーラームーンが古典になりつつあるので、こうして堂々と語れるようになりました」と著者の稲田豊史氏は言う。

 稲田氏は本書でセーラームーン世代のことを「渦中の人」と称している。おそらくアラサーと言われる女性が対象となるはずだが、上司がいて、同僚がいて、そろそろ部下もでき始め、購買力もあって、結婚が取り沙汰される年齢でもある。仕事やプライベートで、セーラームーン世代と関わらないほうが難しいくらいかもしれない。この「渦中の人」であるセーラームーン世代とはどう接していけばいいのだろうか。



●セーラームーン世代はなぜ一緒に働きやすいのか?

――まずは、セーラームーン世代とは、正確にはどの年齢層をさすのでしょうか?

稲田豊史氏(以下、稲田) 今の28~29歳を中心に、上は32歳くらいまで、下は後期のシリーズまで入れれば20代前半まで入るかと思います。一言で言えば、セーラームーン世代は「恋も仕事も趣味も、全部に全力投球!」という、欲張りでエネルギッシュな人たちです。僕自身は40歳ですが、セーラームーン世代って一緒に仕事しやすい人ばかりなんですよ。




――その世代って、今まで散々「ゆとり」と言われてきた世代ともかぶっていますし、むしろ真逆なイメージがありました。

稲田 「ゆとり」な側面はあるといえばあるんですよ。自分の理想を語るとか、自己実現に邁進するとか、組織に迎合しない、人によっては扱いにくいと思ってしまうところは確かにあります。そこに実力や役職が伴っていないと、ただ生意気なだけで「ゆとり(笑)」と揶揄されると思うんですが、今はセーラームーン世代も新人枠ではなくなり、ぼちぼち役職がつきつつある。だから今は、上の世代から散々言われてきたゆとりイメージを覆せる時期に入っているんじゃないかなと。あと、僕の体感値では、そもそも「ゆとり」とバカにされていたのって、男性のほうが多い気がするんですよね。ちゃんと仕事のできるセーラームーン世代の女性たちも一緒くたに「ゆとり」で括られていたようにも思います。

――例えばどういう働き方をする傾向にあるのでしょうか?

稲田 気が回るし、小器用で、度胸もあるし、自分なりの理由や熱意を持って仕事を進めてくれます。この本ができたきっかけも、セーラームーン世代のアラサー女性編集者からの一通のメールでした。見ず知らずの僕に突然メールが来て、そのメールには分厚い企画書が添付されていて。ちょっと感動したんですよね。初めて連絡する相手で、執筆を依頼してもいいかを問う段階で、ここまで企画書が完成されていることってなかなかないですよ。人によってはその勢いに引いてしまうかもしれないですが、僕みたいにこういう仕事の仕方がハマる人は必ずいます。

 僕が会社員だった頃の、セーラームーン世代の部下や取引先の人を思い返しても、経験が少ないながらも自分で考えて進めてくれて、こちらに変な頼り方をしないから話が早かったです。報告連絡相談を細かくして従ってほしい上司や、古い体質の会社だと合わないかもしれないですが。もし、部下がセーラームーン世代だったら、ある程度勝手に泳がせられる部署に配属したり、そういう指示を出したりするのがいいと思います。



――すごくガッツがあって貪欲なんですね。

稲田 そうですね。この元気の良さってバブル世代のイメージに近いところがあるかもしれませんが、バブル世代はもっとマニュアル主義的だったように思います。お金はこれくらい持っていて、ブランドはこれで、などの定められた一つだけの“正解”にみんながみんな近づくために奮闘していたのがバブル世代。一方で、セーラームーン世代は、フラットに色々な選択肢があって、それを自分で選んでカスタマイズしていっています。セーラーチームは、うさぎちゃん(月野うさぎ)が主人公とはいえ、5人全員に見せ場があって、うさぎちゃんだけを目指さなくてもいい。これってセーラームーン特有の構図だと思うんですよね。例えば、『ドラえもん』で「スネ夫が好き」というのはかなりマニアックで、基本的にはドラえもんやのび太が主人公なわけで、スネ夫、ジャイアン、しずかちゃんは取り巻きにすぎない。セーラームーン以前の『魔法のプリンセスミンキーモモ』とか、『ひみつのアッコちゃん』とか、『魔法使いサリー』などの魔女っ娘モノも、一人の主人公がいて、みんながその子を好きになる、といった作品でした。

――セーラームーンたちは5人で協力して敵を倒しますが、チームプレイ面にも世代的な特徴はあるのでしょうか?

稲田 セーラームーン世代より上の世代の女性って、何もかもを蹴落として頑張らないと出世できなかった時代なんですよね。手を取り合って協力し合う、とは言っていられず、ピリピリしていた。誰にも負けないし、文句も言わせない、完璧にやる、女子会なんてしている場合じゃない。女としての自分や、女同士の友情を犠牲にしないと、キャリアを勝ち取れなかった。セーラームーン世代は、社会的な背景も手伝って、チームでお喋りもするけど、仕事は仕事でちゃんとする。欲張りで全部に全力投球で、一つも諦めたくないので、友情も大切にします。


『セーラームーン』がもたらした恋愛観とは

――恋愛面はどうでしょう? 今までの流れですと、セーラームーン世代はかなりの肉食な気がしますが……。

稲田 口では恋愛に対しても諦めたくないようなことを言っていますが、実際はお留守になっていることも多い気がします。彼氏がほしいとか結婚したいとか言っていながらも、毎日楽しそうにしていて、男の人が入る余地がないし、男から見れば彼氏を必要としているようにも見えない。自給自足で満足できてしまっている。これって、タキシード仮面の立ち位置から考えると分かりやすいんですが、セーラームーンという作品には、“王子様”が存在しないんです。タキシード仮面は見た目は王子様っぽいですが、実際は全然王子じゃない。血だらけになってバトルしているのはセーラームーンたちで、タキシード仮面はちょっとアシストするだけでセーラームーンに頼りっぱなし。登場するときの口上も変ですし。

――タキシード仮面は、おかしなキャラクターの部分が注目されて、ニコニコ動画などでもしばしばネタにされていますよね。

稲田 そう。白雪姫でいう王子様のキスのような、最終的に物事を解決するポジションにいないんですよね。それを当たり前のように小さい頃に観てきたら、そりゃあ男性を必要としなくなるよな、と思います。

決してセーラームーン世代が恋愛に興味がないわけではないんですけどね。仕事なら仕事、婚活なら婚活、と何かを犠牲にするスタイルでやっていたそれより上の世代と比べると、セーラームーン世代は、どれもこれも取ろうとしている弊害が恋愛面に表れているような気がします。

――じゃあ、恋愛できたとしたら、セーラームーン世代はどんな恋愛をする傾向にあるのでしょうか?

稲田 貪欲な人たちだから、付き合っていて楽しいのは間違いないです。ただ、束縛したい古風な男性とは合わないでしょうね。自分であちこち飛び回って楽しもうとするから、「自分の手の届く範囲に置いておきたい」という男性とはうまくいきません。

 ちなみに本の中で、セーラーチーム5人の中でどの子が好きだったかで性格診断をする、というコーナーがあるのですが、それを恋愛のスタイルでもやってみるとこうなります。

・水野亜美(セーラーマーキュリー)

様子見タイプ。所属はしていたいくせに、一緒になってバカをやるタイプでもない、一歩引いている。そんな亜美ちゃんが好きだった人は、自分からガツガツ仕掛けていくのではなく、空気を読んで最善の判断。自分は汗ひとつかかずに手に入れます、というスタイルの恋愛をするでしょう。

・火野レイ(セーラーマーズ)

レイちゃんはセーラーチームの中でひとりだけ私立のお嬢様学校に通っていて、巫女で、そもそもスペックが高いんですよね。それでいて、将来はキャリアウーマンになりたいと一貫して言っていて、学園祭では実行委員をやりつつ、自分でステージに立って歌う、セルフプロデュースも完璧なんです。一番セーラームーン世代的なものが色濃く反映されている欲張りタイプ。だから、レイちゃん推しだった人は、男に媚びたくなくて、恋愛も仕事もすべて勝ち取りたい、と思っているはずです。

・木野まこと(セーラージュピター)

まこちゃんは、どちらかというと男性人気が高いんです。身体が大きいことにコンプレックスがあって、だけど料理ができて、本当は女の子らしい。コンプレックスを持っている子って、男性にしてみたら恰好のターゲットですよね。まこちゃんを好きだった人は、そういった彼女の自分に自信がないところや、外からのイメージとのギャップに悩むところに惹かれていたはず。だから、一番普通に乙女ちっくな恋愛を望みがちなんじゃないでしょうか。

・愛野美奈子(セーラーヴィーナス)

セーラーチームの中でも、もともとセーラーVとしてひとりで戦っていた過去があり、ひとりだけ経験値が高い。うさぎちゃんと似ておっちょこちょいなところがありながらも、作り物っぽいところがあるんですよ。うさぎちゃんが本当のおっちょこちょいなら、ヴィーナスは“ビジネスおっちょこちょい”。彼女を好きなキャラクターとして選ぶ人は、ヴィーナス同様、経験豊富で目が肥えすぎていて、変わった恋愛に走りそう。同世代の男の子にピンと来なくて不倫に走ったり、早々に結婚してバツイチになったり……。

・月野うさぎ(セーラームーン)

主人公のうさぎちゃんのことが一番好きな人は、やっぱり古典的なお姫様願望が強いところはあるはず。セーラーチームの中でひとりだけ彼氏がいて、中心核で、何でも手に入れていますよね。ほかの4人はそれぞれ個性が振り切っていますが、うさぎちゃんは実はこの中では最も尖っていなくて、ベタな存在です。

 実は、本記事の筆者もセーラームーン世代のど真ん中である。『セーラームーン世代の社会論』を最初に読んだとき、ただただ驚いた。著者の稲田氏は、基本的にセーラームーン世代をポジティブに捉えてくれている。そのことに驚いたのである。それだけ「ゆとり世代」という言葉のもたらしたネガティブなインパクトは強かった。そもそも筆者の生まれ年はゆとり世代に入るか入らないか微妙なライン(諸説ある)にいるにも関わらず、少しでもダメな行動をしたら「あなたってゆとり世代だっけ?」とこじつけの憂き目に遭ったことすらある。

 書かれている言説が合っているかどうかで言えば、ピンと来るもの来ないもの、それぞれあるだろう。世代論というのは、「地球全体から見たら日本は晴れです」くらいの傾向を楽しむものだと私は捉えている。合っている間違っているを検証するより、世代論と絡めて語られる作品とともに育ったこと、全体を通してセーラームーン世代をポジティブに捉えてもらっていること、この2つを誇りたい。

取材・文=朝井麻由美

Peachy